近年、世界的に腸内フローラの研究が進むにつれ、腸は全身の非常にさまざまな症状に影響を与えることがわかり、「腸活」を実践する人も多くなっています。「腸内環境を整えると健康になる」という意識が高まり、「菌活」もブームとなっています。
ブームとなるのは、お腹の調子に悩む人々がそれだけ多いからでもあります。日本人の4人に1人は腸に不調を抱えているという調査報告もあるほど、悩んでいる人が多いのです。
腸を健康にするための「菌活」ですが、多いのはヨーグルトやキムチなどの発酵食品を摂取したり、キャベツやキノコなどの食物繊維を多く摂る、というものが主流です。もちろん、それで腸が健康になる方も多いのですが、腸内フローラの状態によっては全く逆効果、さらに症状が悪化してしまう、ということがあります。健康のために気をつけている食事が、かえって腸症状を悪化させているのです。このような方は腸内環境を検査すると、腸内フローラのバランスが乱れ、小腸に細菌が増えすぎているSIBO(小腸内細菌増殖症)であることが多く、クリニックでは治療の一環としてFODMAPといわれる糖質が高い食事を避けた食事(低FODMAP食)を摂るよう指導しています。
本アプリ(本著)は、主にこの低FODMAP食のレシピ集となっています。症状がある方は3週間、高FODMAP食を除いた食事だけを摂り、その後、症状が出やすい食品群ごとに1食材ずつ高FODMAP食材を摂り入れ、自分の腸に何が反応しやすいか確かめていきます。それほど症状がひどくないけれど、発酵食品や食物繊維をとるとお腹が張ったり、下痢や便秘になる方は、ご自身の腸の状態に合わせて低FODMAP食を取り入れてみてください。欧米では、低FODMAP食はダイエット食としても注目されています。アプリ内では定期的にコラムを配信し、腸内フローラ改善のための食事やエクササイズ、ダイエットに役立つ情報などをお伝えしていく予定です。
メタボ改善やダイエットだけでなく、腸症状の改善は、さまざまな全身症状の改善につながります。当院にも関節リウマチをはじめとする自己免疫性疾患や花粉症・アトピー性皮膚炎といったアレルギー症状のある方、うつや自閉症スペクトラムの方まで、さまざまな患者さんが通院されています。特に脳と腸が自律神経を通して密に関連している「腸脳相関」という言葉は、医学関係者だけではなく一般の方々にも知られるようになってきました。
当院では、開院当初から消化器内科と心療内科を設け、治療に取り組んでいます。日々患者さんと接していると、食事改善だけではなく生活改善、ひいては生き方そのものを見直す時代がきていることをひしひしと感じるのです。
本アプリのライフログ機能には、このような視点を取り入れ、便の状態だけでなく、睡眠やその日の気分を記録する項目を設けています。ご自身の毎日の生活の記録によって、心と身体の声に気づきを得る一助となれば幸いです。
クリニックでは、これまでもできるだけ薬に頼らない自然療法や日常生活における食事指導、運動指導など具体的なアドバイスを行なってきましたが、日常生活における充実したレシピの提案まではなかなかできない状況でした。今回、本アプリ(本著)の発行によってバリエーション豊かなレシピをご紹介できたことは、IBSの患者さんにはもちろん、健康長寿を目指す方からお子さんの心身の成長を支える方々まで、広く「食」を楽しみながら健康管理を継続していただけるのではないかとうれしく思っています。
健康のために我慢するのではなく、生きることを楽しむ。そんな視点から低FODMAP食や腸活エクササイズに取り組む方が増えることを心から願っています。
- 城谷 昌彦
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ルークス芦屋クリニック 院長 (プロフィールはこちら)